それは何度目かの襲撃の後のこと。
皇族同士の熾烈な足の引っ張り合いは毎度の事ながら、宮への襲撃という派手な立ち回りの舞台になりがちなアリエス宮。
庶民出の皇妃様こと、マリアンヌ后の美貌と寵愛を妬んでのことか、他の宮よりも頻繁ではあるらしい。が、虫も殺さぬような美貌の佳人は騎士公として名を馳せただけのことはあり、警護の者を従えて率先して返り討ちしまくっているという。そのあたりも襲撃が派手になる要因なのではなかろうか。と、思わないでもない。
そんな見た目に反して行動力に長けた后の愛息子はといえば、少々運動能力が乏しいらしく、その方面での能力は妹姫に譲ったようだ。
そして今、目の前で愛らしい顔でじっと見上げてきて、何かを言いかけては口を噤み床を見。そしてまたじっと見上げてくる。を、繰り返す愛らしい生き物こそ、マリアンヌ后の愛息子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであった。
「ルル・・・・さっきから、どうしたんだい?」
第2皇子として執務やら何やら忙しい日々を送っているが、この義理の弟に割く為の時間はいくらでもある。
「あの・・・・・お母様は、キレイですよね?」
「ああ、マリアンヌ皇妃は私が知る中でも、物凄く美人だよ」
「ナナリーも・・・・可愛いですよね?」
「素直でとても愛らしいお嬢さんだよ」
「・・・・・わ・・・・私も・・・・お母様の息子だし、ナナリーの兄だから・・・・ちょっとは、いい所ありますよね?」
こ・・・この可愛い生き物は何を言い出しているんだろう? 母親や妹を引き合いになど出さなくとも、一番可愛くて賢くて、ちょっと鈍臭いところも愛しいというのに。
「ルルーシュ・・・、何を心配しているのかわからないけど、私が知る中で一番可愛くて賢いのは君だよ」
「それはっ・・・兄様がシスコンでブラコンだから・・・・じゃないですよね?」
シスコンでブラコンって、誰がそんな言葉を教えたんだい? と、内心で検討を付けつつ、どうやって報復しようか一瞬だけ考える。
「君が私の弟だというのを差し引いても、君の優秀さや愛らしさには変わりないと思うけど?」
「そうですか・・・」
この弟が愛情の確認だけで、このような事をわざわざ言い出してくるとは思えない。何か考えがあっての事だろうが、今までの会話では答えを想像するのも難しい。
「兄様や姉様達は、・・・・・可愛い服とか、プレゼントしてくれますよね? 僕の性別とか忘れてるみたいですけど・・・」
「可愛いドレスとか見ると似合うのではないかと思ってね。」
「それは、僕がそういうドレスを着ている姿を見たい。という需要があるということですよね?」
「需要って・・・・、まぁ、そういう事ではあるかな?」
今まで不安そうに揺れていたアメジストの瞳が、キラリと煌く。
「ありがとうございました、シュナイゼル兄上。やはり市場リサーチを行ってから行動に出るべきだと思いましたので、貴重なご意見ありがとうございました。」
市場リサーチって何だい? 何をしようとしているんだね、君は?
「ルルーシュ? 何をしようとしているんだい?」
「先日の襲撃で・・・・、ナナリーと作っていた苺畑が踏み潰されてしまって・・・あともう少しで収穫できるねって楽しみにしてたのに・・・」
それと、今までの話に何の繋がりが?
「だから・・・、アリエス宮に入る前に襲撃を止められるように警備員を増やしたいな。と思ったんですけど、雇うにもお金が必要でしょう?」
「そうだね、必要だね」
「でも僕はまだ子供ですし、働くと言っても雇ってくれる所があるかわからないですし、賭けチェスで儲けるというのも考えたんですけど・・・」
「君の強さなら、私以外からは稼げるかもだけどねぇ」
「ありがとうございます。では、そちらも考慮しておきます。」
「なるほど、お金を稼ごうと思っているのだね? それで市場リサーチは何のために?」
「元手があまり必要でないところから初めていこうと思いまして、アフィリエイトっていうんですか? の、サイトを作ろうと思うのです。」
「ネットで通信販売の紹介をして、マージンを貰うという奴だね?」
「そうです。それで、子供服とかぬいぐるみとか、僕がモデルになって紹介するようなサイトにしようと思うんです。それから使用したものはオークションで売ってしまえば、邪魔にならないし」
それは・・・・・ちょっと鼻血ものかもしれない・・・・
今まで贈ったドレスやら何やらはその殆どが袖を通して貰えず仕舞いで、極稀にマリアンヌ皇妃の親切で嫌がるルルーシュに無理矢理着て貰っていたことを考えると、自ら着てくれるというのは何にも勝る至福っ!!
しかも、ルルーシュが身に付けた衣装がオークション・・・・・・変態に落札されないようにしなくてはっ!!
「がんばりなさい、ルルーシュ。君がどこまでやれるか見ていてあげるよ。勿論、衣装の提供もしてあげよう。」
「ありがとう兄様♪」
シュナイゼルの首に両手を回して、頬に軽くキス。
自分の容姿には無頓着と思われていたが、自分の価値を有効に利用することを覚えたようだ。
齢9つにして、経済活動と自分プロデュースを同時に行おうとするとは行く末が楽しみでならないシュナイゼルであった。
「クロヴィス兄上には撮影をお願いしてあるんです。あと、ユフィとナナリーにも一緒にモデルをやってもらおうと思って」
「もう各所には手を回していたのかい」
「はい。それで、知っている中で一番常識的であろうシュナイゼル兄様の意見も聞いておきたかったんです。撮影の日取りは後ほどお知らせしますね。お暇でしたらぜひ遊びに来て下さい。」
「何を置いても、お邪魔しに行くよ。私もカメラを持っていってもいいかな?」
「勿論です♪」
どんな衣装を着せようか、妄想が膨らんでいくシュナイゼルであった。
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