プレゼント
10月25日。
それは、ルルーシュにとって決して疎かには出来ない日であった。
何しろ、最愛の妹ナナリーの誕生日なのだから。
朝一番に「誕生日おめでとう」を言いに、ナナリーの寝室に突入してまだ寝ぼけているナナリーの額におはようのキスをすることから一日が始まったわけだが。 今は、厨房にて料理人に手伝ってもらいながらナナリーの誕生パーティのためにホットケーキを焼いているのだった。
本当はもっとお店で売ってるようなキレイなケーキを作ってみたいのだが、10歳の男の子としてはがんばってるほうだと思いたい。
勿論、料理人達が贅を凝らしたデザートや料理も作っている。作ってはいるが、優しいナナリーや母達はルルーシュのホットケーキも食べてくれると思う。
フライパンに油をしいて、焦がさないようにじーーっと表面がぷくぷくしたりするのを真剣に見張っている最中に「マリアンヌ様から、お電話でございます。」と、電話を抱えた侍従がやってきた。
火加減が~、と、思いつつも家族大好きっ子のルルーシュは料理人の人にホットケーキを見張ってもらうことにして電話口に出る。
「母様、どうされました?」
「ルルーシュ、ナナリーへのプレゼントは用意してあるわよね?」
「ええ、勿論です。去年の誕生日の後から、何を贈ろうかと探してたくらいですから。ナナリーに似合うものをちゃんと用意してありますよ」
「そう。それならいいのだけど。でもね。もう一つプレゼントを用意しておいてくれないかしら?」
「は?」
「だから、もう一つプレゼントを用意しておいてね♪ 私も物凄く驚くプレゼントを持って帰るから」
「あ・・・・あの・・・・」
そして無常にも電話は切れてしまい、受話器を片手に固まるルルーシュから侍従は受話器を奪うのであった。
「どういうことだ? もう一つプレゼントって・・・・母様は公務で出てらっしゃるハズなのに何をしているんだ?」
小首を傾げながら、今まで作ってきたホットケーキの山を見る。
「ホットケーキは、これ以上作らなくていいか。もう一つプレゼントを用意しなければならなくなったようだし。本当は生クリームとかで飾りもつけたかったのだが・・・」
「ルルーシュ様、私達でよろしければデコレーションの方もいたしますので」
「ああ、すまない。お願いするよ。誕生日会の準備で忙しいのに邪魔をしてしまったな。デザートと料理も楽しみにしてるから。」
フリル付のピンクのエプロンをきちんと畳みながら、自室へと引き返す。その間も何かプレゼントになりそうな物を考える。
ナナリーへのプレゼントは彼女のミルクティー色の髪に似た感じのクマの縫いぐるみ。店頭で見かけた瞬間、これだ!と思い、今日の日のために購入しておいたのだ。首のリボンはレースで、ナナリーの髪のリボンとお揃いになるようにしてある。
その他にプレゼント・・・となると、途端に悩んでしまう。仮にも皇族、物質的に敢えて欲しいとは思わなくても何でも持っているし、ヴィ家はさらにルルーシュが兄や姉達からプレゼントされるものが半端でなく多い家なのだった。
だから尚更、手作りに拘ってしまいたくなるのかもしれない。
「プレゼントで頂いたものより、僕が買っておいた何かの方がいいよな。きっと」
一つ一つ手に取って、プレゼントになりうるか考えてみる。
「この万華鏡にしよう。キラキラしてキレイだし、世界がまるで宝石のように素敵に思えてくるから、それに身につけてもらえるし」
それは十字架の形をしたペンダント状の万華鏡。
お気に入りだったそれは一時期ずっとルルーシュの胸元を飾っていたものだった。そして何度もナナリーに覗かせて欲しいとねだられたこともあったものだった。
きちんとラッピングしてリボンをかけ終われば、あとは誕生日のパーティを待つばかりだった。
会場となる部屋には既に仲の良い皇族の兄姉やユフィやミレイが来ており和気藹々とした雰囲気を醸している。彼らはルルーシュが運営するサイトの手伝いをしてくれるおかげで家族の次に気安い仲となっている。
「今日はナナリーのためにお集まり頂きありがとうございます。ところで母様はまだ公務から戻られてないのかな?」
「お戻りになられて、用意をなさっているところです」
「そうか」
その時、本日の主役であるナナリーが現れた。
淡いピンクのふわっとしたドレスにはマーガレットの造花が散りばめられていて、ツインテールのリボンにも同じマーガレットがついている。
「誕生日おめでとうナナリー。まるで花の妖精のようだよ」
プレゼントのクマさんを手渡しながらそう告げる。
「ありがとうございます。お兄様」
「よく似合うよナナリー、私もデザインした甲斐があるよ」
「クロヴィスお兄様、素敵なドレスをありがとうございます」
と、言ってくるりと一回転してみせる。
「本当に可愛いですわ、ナナリー。クロヴィスお兄様、私のときにもデザインよろしくお願いいたしますわ」
と、プレゼントを渡しながらもクロヴィスにねだるユフィ。
「クロヴィスはモテモテだね。私からはこれを」
シュナイゼルがプレゼントしたのは、ヴィ家の紋章付のステーショナリーセット。
「ありがとうございます。沢山お勉強しますね。」
沢山の誕生日の贈り物に囲まれて幸せそうに微笑むナナリーを見て、さらに幸せそうに微笑むルルーシュ。そんな兄妹を見て和む義理の兄達。
「遅くなってごめんなさい。ナナリー。私からのプレゼントはこれよ。」
と、勢いよく入ってくるマリアンヌ。頬にキスをおくりながら渡すのはスポーツ用品一式。インドア派のルルーシュに比べ、明らかにナナリーはナイトオブラ ウンズのワンにまで登りつめたマリアンヌ似。いまですらお転婆なナナリーを助長するようなプレゼントにちょっとだけ頭痛のしてくるルルーシュであった。
「うれしいです。お母様♪ ナナリーも一杯運動とかしたらお母様やコーネリアお姉様のようになれるでしょうか?」
「ええ、ナナリーならきっと大丈夫よ。あとね、もう一つプレゼントがあるのっ!!」
「もう一つですか?」
「そうよ、もう一つ。ロロ、入ってらっしゃい」
扉からこっそり中を伺うように見ている少年に視線が集中する。
びくっとなってまた隠れるのをマリアンヌはひっぱりだしてくる。
「プレゼントはこの子よ♪ ナナリーにはお兄さんを、ルルーシュには弟をプレゼントするわ♪」
「「「「「えっ!?」」」」」
ルルーシュが一瞬、目の前が暗くなったとしても誰も咎めないだろう。マリアンヌが破天荒なことは多かれ少なかれ誰もが知る所だが、それにしても・・・
「母様・・・・どこから持ってきたんですか、その子・・・あぁ、怖がらないで君を責めてるわけじゃないよ」
ちょっと低くなる声にビクッとするナナリー似であるところのロロを必要以上に怖がらせないようにしつつ、マリアンヌを問い詰めるのはルルーシュとはいえ高等テクニックだ。
「だってぇ・・この子、行くところないっていうし・・・・それに、私がどっかに産み忘れてきちゃったんじゃないかしら? って、思うくらい、この子、ナナリーに似てるでしょ。なんだか他人に思えなくて・・・」
それは一目見た時から思った。ミルクティー色の髪に淡いスミレ色の大きな瞳。ナナリーを男の子にしたら、こんな感じかな? と、いうくらいに似ている。
「ロロ、こちらにいらっしゃい。さ、ナナリーの横に並んで」
二人揃って顔を見合わせて、こてんと首を傾げると最初から双子で生まれてきたかのようなそっくり具合で。ナナリーがお転婆さんだとすると、このロロという子はちょっと内気そうに見えるが、初対面の人ばかりの中ならそう見えても仕方ないのかもしれない。
「もうね、パパ(シャルル)には許可もらっちゃってあるのよねー。ということで、今日からうちの子です。ロロは自分の誕生日も分からないっていうから、ナナリーとお揃いで今日が誕生日ということにしますっ」
あ、断言したよ。この母・・・
それにしても、この子はこの母にいつ捕まったんだろう? 今朝のプレゼントを一つ追加。って事は今朝捕まったのか? そして皇帝の許可も今日もぎ取ったのか、さすがはもとナイト・オブ・ワン。
「ロロお兄様、ナナリーと呼んでくださいね」
暴走する母はともかく、ナナリーまで認めてはルルーシュに残された選択肢は一つ。
「ロロ、誕生日おめでとう。僕はルルーシュ。兄さんと呼んでくれると嬉しいな」
プレゼントを手渡し、ラッピングとリボンを解いて十字架型の万華鏡を首にかけてあげる。
「いいの? ボク・・・・」
もじもじするロロの右頬にちゅっとキスをするナナリー。
「ロロお兄様はもう家族ですわ」
ルルーシュもナナリーに似ているのに薄倖そうなこの少年の左頬にキスを贈る。
「大丈夫、ただでさえ兄弟の多い家なのだから、一人くらい増えたって誰も違和感ないから」
「それもそうですわねぇ。ロロ私達もみんな兄弟ですのよ。ね、クロヴィスお兄様、シュナイゼルお兄様」
相変わらず順応性の高いユーフェミア。
「そうだねぇ」
と、乾いた笑いの上の二人の兄はおいておく。
ぐーーーーーーきゅるるる・・・・
途端に顔を真っ赤にするロロ。
「あ・・・、ナナリーの隣に席を用意するから」
「一緒にケーキのろうそくを消しましょう。ロロお兄様」
「ろうそく?」
「ええ、誕生日ケーキのろうそくを吹き消すのは誕生日の人なんですよ。ロロお兄様の誕生日も私と一緒の日になったのです」
いっせーのせっ、で吹き消される蝋燭。
「ハッピバースディ、ナナリー&ロロ!!」
緊張しながらも、頬を赤らめるロロを可愛いと既に思っているルルーシュなのであった。
END
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